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ほとんど今日のことではありません。

『映画を撮りながら考えたこと』を読んで考えたこと

 

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是枝裕和監督の『映画を撮りながら考えたこと』について。

 

2018年に、この本を企画・取材・執筆したブックライターの堀香織さんとある縁で知り合い、堀さんからこの本の制作にまつわるストーリーをいろいろと伺う機会があった。早速読んでみると、おもしろい!

 

とにかくおもしろかったので、レビューします。

 

8年間の集大成というべき 「厚み」


この本は、完成までに8年かかっているらしい。ページ数、414ページ。厚い。


別のブックライターが、「今はサラッと読める本の方が売れるので、東京ー名古屋間の新幹線に乗っている間に読みきれる本を書くようにしている」と言っていたけど、この本はサラッと読める本の類ではないだろう。

 

それはもちろん414ページという厚みのせいでもあるけれど、それ以上に、読んでいる間にいろいろと考え始めてしまうので、ページをめくる手が止まってしまうからだと思う。

 

是枝監督の映画は、例えば『万引き家族』が実際にあった年金の不正受給問題を基につくられたように、社会問題や事件から着想を得ているものが多い。

 

普段何気なく見ているニュースも、別の角度から見ると見解は変わるのだと、映画を通して再認識するのだ。

 

この本のなかで、是枝監督は「映画が考えるきっかけになってほしい」と述べているが、この本もまさに考えるきっかけとなる本だと思う。

 

本も内容も、厚みがある。

 


映画制作の裏側がわかる、やはり裏っておもしろい!

 

この本では章ごとに1本の映画が紹介されており、最初の作品である『幻の光』(1995)から出版当時の最新作『海よりもまだ深く』(2016)までが時系列に並んでいる。(更新されていくはず! されてほしい!)

 

私はそれほど映画に詳しくないし、映画制作にとりわけ関心があるわけでもないのだけど、映画制作の裏側っておもしろいですね〜。

 

撮影はどのように進んでいくのか。
撮影や証明、脚本でどのような工夫がされているのか。
どのように俳優を選ぶのか。

 

映画監督に限らず、クリエイティブな仕事をしている人にとっては最高におもしろいはずだ。

前の会社の同僚デザイナーにこの本を紹介したところ、早速読んで「おもしろい!」と言ってくれた。そして、「初期の作品から全部観たくなったね」と。

 

映画は実際に観ることができる。だから、本を読んだらぜひ映画も観てほしい。もしくは映画を観た後に本を読むのでも良い。映画と本を行ったり来たりして楽しむこともできるのだ。

 

すでに観た作品でも、この本を読んでから改めて観ると、映画のおもしろさが増すこと間違いなし。

 

また、映画の収益はどのように配分されるのかとか、どのようにプロモーションするのかについても書かれている。

 

クリエイティブな面だけでなく、経営的な面からも映画を知ることができるのでおもしろい。お金の話は、やっぱり気になるし。

 


気づきやアイディア、学びが多い


この本を読むと、新しい気づきやアイディアを得ることができる。

 

たとえば、是枝監督は社会的な問題を題材に映画を制作するうえで、「被害者家族との出会い」や「父親の死」という極めて個人的な出来事がキーになると言っている。


一方、個人的な体験や感情をアウトプットするときには、社会的な視点に置き換えることが重要なのだそう。

 

「パブリック」と「パーソナル」。

この2つの視点でものごとを捉えることは、私たちの実生活においても重要だと感じた。

 

また、写真家・荒木経惟氏の「今の写真に欠けているのはオマージュだ」という言葉に対して、是枝監督は次のように述べている。

 

写真で大事なのは、作家の想像──イマージュではなく、被写体への愛──オマージュだと。それが映るのが写真であると。僕はこの意見に心から賛成します。(省略)ですから、イマジネーションが自分の内部に涸渇して撮れなくなるという心配は、実はまったくしていません。

 

作品をつくる人は、なぜ次々と新しいものを生み出せるのだろうと思っていたが、ストンと腑に落ちた。(本を読むと、「次々と」生み出しているわけではないことも十分理解できた)

 


「これこそ読書!」という追体験


よく「読書ほどコストパフォーマンスが良い学びはない」と言われるが、私はこの本を読んで、まったくその通りだと思った。

 

『映画を撮りながら考えたこと』の価格は、2,400円(税抜)。本のなかでは、ちょっとお高め? けれど、この本を読むことで是枝監督の苦悩や迷い、喜びを追体験できるなら、2,400円は安いですよ。本当に。

 

そういえば、中学3年生のときにクラスの男子が「読書は追体験できるから好き」と言っていて、かっこいいな〜と思ったことを思い出した。

 

あれから12年経ってようやく私も同じことが言える。

追体験こそ読書の醍醐味だと思う。

 

 

『映画を撮りながら考えたこと』は、映画『万引き家族』がカンヌ国際映画祭で最高のパルム・ドールを受賞してから再び注目を集め、重版を繰り返しているそう。しかもすでに韓国語、中国語(繁体字・簡体字)フランス語に翻訳され、海外でも出版されている。

こんな素敵な本を世に送り出すなんて、ブックライターとはなんて素敵な仕事なんだ!


この本は本棚に置いておき、映画を観るたびにその章を読んでいくのがオススメです。

 

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映画『万引き家族』をお気に入りの映画館で観てきました。

 

 

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映画を撮りながら考えたこと

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