前の会社の支店長は、髪が薄かった。うん。冒頭からここまでストレートに表現していいのかは分からないが、これを読んで「あの支店長ね!」と気づくのは2人くらいだろう。(だから良いだろう)
私はその支店長が好き。社内監査を担当していたので、3ヶ月に1度の支店出張でお会いする。展示会と決算監査、本社で行われる支店長会議なども合わせると、1年間に10回くらいお会いしていたかも。その度に、親父ギャクが炸裂するのだ。よくもまあ、そんなにバンバン思いつくな〜と、笑いを通り越して感心してしまう。もちろん、この場合の正解は「無邪気に笑う」、一択だ。
たとえば、車に乗り込むと「54よろしく」と言われる。お察しの通り、「ロック(6×9=54)よろしく」だ。これはもう、笑いを通り越して拍手せざるをえない。バックミラー越しに映る私の感嘆の表情を見て、支店長は「笑ってよ〜」と拗ねていた。助手席に座る経理課長も、多分、笑っていなかった。それが逆におもしろい。そういうわけで、私は結局笑ってしまう。
社内監査は、先に説明したとおり、3ヶ月に1度、全部の支店をまわる。3ヶ月分の領収証やその他の帳票を確認して、「この飲み会はどなたが出席されたんですか」とか「この修繕費はどの設備を修理したものですか」と聞く仕事。2日かけて行うので、1日目の夜は支店長や課長と一緒にご飯を食べることもあった。
ある日、監査1日目の夜に3人でご飯を食べていると、酔っ払った支店長が「育毛剤は、経費にならないの?」と言った。「なりませんね」と課長。
「でも、相手をもてなしたいわけだから、接待交際費にならないかな?」
「いや、なりませんね」
「でも、身だしなみって大事でしょ」
「大事ですけど、経費にはなりませんね」
「それによって、契約が取れるかどうかが変わるかもしれない」
「でも、なりませんね」
「その場合、販売促進費になるんじゃないかな」
「いや、なりませんね」
という会話が延々と続いた。よくもまあ、バンバンあの手この手が出てくる。この高度なボケが酔っている状態で出てくるのだから、やはり拍手せざるをえない。
結局、育毛剤は経費に計上できないという結論に至った。(そもそも、買う気なんてないんですきっと。最初から)
ちなみに昔、税理士事務所でアルバイトしていたときに、いやらしい薬(というか、まあ液体物質)を薬代と一緒に福利厚生費で計上している社長がいたな〜。個人的なものは経費に計上したらダメだということは、大学生のアルバイトでも分かるんだから、大人はルールを守ってほしいものです。
会計のルールを守ろう。
交通ルールも守ろう。
車に乗るときは、シートベルトを締めよう。
54もお忘れなく。