私の涙もろさは、おじいちゃんから受け継いでいる。
おじいちゃんは、とにかく涙もろい人だった。若いときは威厳があったが、歳をとり、孫ができてからは泣くことが多くなったらしい。
テストを受けた妹に、「今日のテストはどうだった?」と聞いたおじいちゃん。「できたよ」とそっけなく答える妹。おじいちゃんの目には、すでに涙が溜まっていた。そして、「うぅ……」と声が漏れていた。涙もろいにも程がある。
おじいちゃんは涙もろくなるとともに、耳も遠くなっていった。呼びかけに振り向かないこともしばしば。
しかし、変なところで敏感に反応した。
たとえば、いとこが遊びにきた日のこと。
おじいちゃんに「みんなが来たよ」と話しかけても、聞こえなかったのだろう、返事がなかった。私が小学2年生の時である。
私たちは2階の部屋で、マジックごっこを始めた。壮大なマジックだ。
まずは家中の毛布を集める。そして、背丈が同じくらいの妹といとこが縦に重なって寝ころび、上から毛布をかける。「切断します!」と言う合図で、2人は上半身役と下半身役に分かれて、真っ二つになるのだ。
これはおもしろい。もっと練習をして、最後は大人たち(親やおじさん、おばさん)に見てもらおうということになった。
練習を重ねる。
もっと縦にきれいに重なって!
もっと毛布を自然に離して!
合図係の私も、声に力が入る。
「切断します!」
すると、部屋のドアがバタンと開いた。そこには、おじいちゃん。
そして、一言。
「切断はダメ」
おじいちゃんに怒られる私。
ゴソゴソ動く毛布からはみ出る小さい足。
いかにも子どもらしいマジック公演は、冗談の通じない大人によって、あっけなく中止においやられた。
もし中止していなかったら、マジック公演を見ておじいちゃんは泣いたかもしれない。テストの点数も出ないうちに、感想だけを聞いて泣いたおじいちゃんである。切断マジックを見れば、毛布の中で健気に身体を折りたたむ孫たちの努力に感動しただろう。
見てほしかったが、仕方ない。
おじいちゃんは、きっと本当は地獄耳だった。