私とアイシェの出会いは、長崎のマクドナルドだ。
浜の町という商店街の中心に十字路があり、そこにマクドナルドがある。アイシェと私はマクドナルドの前にできた長蛇の列に並んでいた。
アイシェの順番がまわってくると、レジの店員さんは困惑の表情。話し込む2人の会話を盗み聞きすると、豚肉が入っているかの確認だった。イスラム教徒かな? そこで、“Can I help you?” と勇気を持って話しかけたのだ。これが、最初の会話である。
無事に注文を終え、良かった良かったと2人で待っていると、トルコから旅行に来ているのだと教えてくれた。前日に平和公園で開催された式典に参加したという。だから、この日は8月10日だった。
彼女は自分の名前がアイシェだと名乗り、2日後に長崎を発ち、そしてそのままトルコに帰ると言った。
私はホルヘさんに出会って以来、観光客には親切にしようと決めているので、「それなら、長崎を案内するよ」と提案。翌日、マクドナルドで待ち合わせすることにした。
翌日、マクドナルドの前にアイシェはいた。
すでに一通り長崎を観光したという。それなら楽しいイベントを見つけようということになり調べてみると、ちょうど夕方からグラバー園で「ベリーダンスイベント」が開催されるらしい。
グラバー園というのは長崎の観光名所の1つなのだが、私は行ったことがない……しかし、前日にアイシェは行っていたので、まさかのまさかでアイシェに案内してもらった。
朝から出島に行ったり(ここも私は初めて行った)、中島川で折り鶴を折ったり、旬やでバイキングを食べたりして、長崎を観光。当時私は英会話教室でアルバイトをしていたので、一緒に働いていた人たちに声をかけたら、すぐに来てくれた。
夕方、グラバー園に到着。私たちはビールを飲み、アルコールを飲まないアイシェはオレンジジュースをグビッと飲んだ。
陽が沈む頃、ベリーダンショーが始まった。ダンサーたちが登場し、華やかな衣装で腰を振る。
気づけば、アイシェもステージで踊っていた。(いつのまに!)それがなかなか上手いので、隣で踊るお姉さんは苦笑い。「こっちが本場よ」と、しばしバトったのだ。
やがてステージから降りてくると彼女は大きな拍手で迎えられ、まんざらでもない表情。トルコの血が騒いだのだろう。酔ってる私も、今なら踊れる気がした。
イベントが終わると、すでにあたりは真っ暗。別れるのが惜しいので、港まで歩いて花火をした。コンビニで買った、線香花火。無心で火花を見つめ、「来年は、私も平和式典に参加してみようかな」と思った。
アイシェと出会った翌年2月、卒業旅行で彼女を訪ねてトルコに行く。
その年の8月、アイシェが長崎を再訪し、2人で平和式典に参加。
その翌年も、アイシェ来日。
そして、昨年の冬。
アイシェは私の結婚式に来てくれた。
親族だけでのささやかな式だったけど、振袖を着て参列してくれた。
今でもみんなで丸くなって花火をした日を忘れない。
夜空に月と星が並んで、トルコの国旗みたいだった。