今日のこと。

ほとんど今日のことではありません。

ヒーローは風船泥棒

土曜の朝は、パンが多い。家の近くに「ナノッシュ」という美味しいパン屋さんがある。先週の土曜も、朝食はナノッシュのパンだった。

 

いつもは夫がバイクで買いに行くのだが、海外出張から帰ってきたばかりで疲れていたのだろう、昼近くまで寝ていたので、初めて1人で買いに行った。スバルのR2でブーンっと。

 

いつものパンを買い、駐車場に戻ると、どこからともなく子どもの泣き声が聞こえる。気のせいだろうか……近くの家で、親から叱られているのかもしれない。

 

車のドアに手をかけたとき、やはり子どもの泣き声が聞こえた。しかも、先ほどよりもしっかりと。おまけに「助けて〜」という声まで聞こえる。

 

これは、助けなくてはいけない。

 

ふと隣の車を見ると、耳を塞いで泣き叫ぶ3歳くらいの男の子が助手席に座っていた。車内を覗くと、誰もいない。怪しく思われないだろうか……と思いながらも、助手席に駆け寄った。

 

やはり、泣き声は車内の男の子のものだった。ものすごい、怯えている。

 

「大丈夫?」と聞くも、耳を塞いでいるから聞こえない。ドアを開けようとしたら、うん、普通に開いた。

 

男の子に「大丈夫?」と聞くと、運転席と助手席の間に挟まった風船を指差し、「これが怖い」と言う。プードルを作るときに使う、あの細長い風船だ。「これ、割れちゃったの」。男の子の足元を見ると、割れた風船が落ちていた。きっと、風船が割れてびっくりしたのだろう。そして、同じようにこの細長い風船も割れると思ったのだろう。クイズに答えるまで風船が膨らみ続けるバラエティー番組のように、男の子はいつ割れるか知らない風船に怯えていたのだ。

 

「分かった分かった!もうこの風船は、お姉ちゃんが持って帰るからね」と風船を取り上げ、「いい?」と聞くと、コクリと頷く。

 

「1人で待ってて、偉いね」と言うと、コクリと頷く。

 

ウンウン。

 

隣のR2に乗り込み、運転席から男の子を見ると、笑顔で手を振ってくれた。

 

泣いている子を笑わせるって、気分がいいネ。

 

ナノッシュのパンと、細長い風船を持って、家に帰った。