今まで、変なあだ名をたくさんつけた。
たとえば高校3年生のとき、濱田さんというしっかり者で縁の下の力持ちみたいな子を、「ハマス」と命名したので、その日から彼女の発言はテロリストのそれと同じように注意深く扱われた。クラスのみんなが呼ぶようになって、さすがにまずかったかな……と思ったが、卒業前にハマス本人から「ありがとう」と言われたので結果オーライだったと信じたい。
大学1年生のときには、1度も話したことがない松下君という男子に「元彼」というあだ名をつけた。高校生のときに付き合っていた人に似ていたからだ。こちらも、友達の間で「元彼」というあだ名が定着したので、私たちの会話を聞いている人はちょっと不思議に思っただろう。みんなが同じ人と付き合っていたのか?と。実際のところ、誰も付き合っていないのに。
高校に話を戻すと、私が所属していた女子卓球部は、男子と一緒に練習をしていた。男子のなかに顔立ちがきれいな部員がいて、ペ・ヨンジュンにそっくりだった。だから、「ペ様」というあだ名をつけた。ヨン様にはなりきれなかったのだ。
それから、実家で飼っている2匹の犬にもあだ名をつけた。
ラブラドールレトリーバーのラブは、愛之助。これは歌舞伎役者の片岡愛之助さんの愛称「ラブリン」からきている。あだ名から名前に戻すという、逆転の発想を用いた。
ミニチュアシュナウザーのジョンは、万次郎。歴史の教科書で、遣米使節団の一員として渡米したジョン万次郎からヒントを得た。先日実家に「野中 万次郎様」宛てでハガキを出したら、ちゃんと届いたらしい。飼い犬のあだ名でも届くとは……
彼らが自分のあだ名を理解しているかは、わからない。
そもそも彼らは自分の名前さえ理解しているのかわからない。
これは飼い主の怠慢なのだが、「お手」や「おかわり」などの芸を教えてこなかった。
ジョンは2〜3ヶ月に一度、人間よりも高いお金を払って毛をカットしてもらうのだが、カット後は別人ならぬ別犬になって戻ってくる。ふわふわの毛が一気になくなり、トリマーさんが「ジョン君です」と連れてくるのは痩せ細った灰色の犬なのだ。
私たちは「これは本当にジョンなのか?」と疑わざるをえない。
だから右手を差し出し、「お手」と言ってみる。
………(無反応)
そこでやっと、あぁジョンだ〜と確信を得るのだ。
そんな万次郎は、今月15歳になった。
これからも、愛之助と仲良く過ごしてほしいと願ってやまない。