今日のこと。

ほとんど今日のことではありません。

大事なことは、いつも記憶の片隅に

大学1年生の半年間、ワンダーフォーゲル部に入っていた。

 

雲海やきれいな高山植物、かわいいリスなんかの写真を見せてもらって、なんて素晴らしいんだろうと入部。半年間トレーニングを積み、夏には北海道の大雪山を登った。

 

この半年間のトレーニングというのが想像以上に本格的で、週3日の基礎トレーニング(5kmくらい走るのと、筋トレ)、土曜日のクライミング、日曜日のプレ登山……描いていたキャンパスライフとかけ離れた毎日だった。

 

長崎から北海道までは、節約のために2日かけてフェリーで行く。フェリーの中は大きなお風呂もあるし、意外と快適だ。ただし、知らない人たちと雑魚寝しなければいけなかった。

 

私たちの部屋は20人くらいが収容できる部屋で、1番奥には見るからに「ドン」みたいなおじさんがいた。

おじさんは、「荷物を見ててやるから、風呂行ってきていいよ」と言ったり、急に飴を配りだしたり、とにかく怪しい人だった。

 

 

その日の夜、私はなかなか眠れなかった。

 

 

波で身体が上下するからではない。

 

 

おじさんの寝言がうるさいのだ。

 

 

おじさんの寝言は、わりとしっかりしている。

 

大声で「おい!」と急に叫んだかと思えば、「うー」と唸ったりする。「ローーーーン!」と言っていたので、多分夢の中で麻雀でもしていたのだろう。

翌朝部員たちの間で「昨日のおじさん、アガってたよね」と盛り上がった。

 

 

2日後北海道に着き、おじさんに別れを告げ、テント生活を始めた。約1週間は山の中。9月なのに、大雪山では雪が降っていた。

 

北海道の山は、平らで広い。遮るものがないので、強風が吹く。15kgのザックを背負っていても吹き飛ばされそうだ。夜になると真っ暗で、ヘッドランプなしでは何も見えない。そのかわり、星がとても綺麗だった。

 

山の中はすべてが新鮮だ。

 

山で食べるカンパンはおいしい。こんなおいしい食べ物は他にない、と思うほど。しかし、山から下りて食べたことは1度もない。星もそう。あんなに綺麗だと思ったのに、今では夜空を見上げることはほとんどない。

 

感じたことや体験したことは、どんどん忘れてしまう。

 

覚えていることといえば、「おじさんが夢で麻雀していた」というような、どうでも良いことだったりする。

 

もう少し、記憶に幅をもたせたいものである。