今日のこと。

ほとんど今日のことではありません。

夫と付き合う前の話

最近は俵万智のことばかり書いているけど、そういえばひとつ思い出したことがある。夫と付き合う前のことだ。

 

私たちは、夜の大学の屋上という、なんとなくロマンチックに聞こえるけれど、実際のところそうでもないスペースで、「じゃあ、付き合おうか」と言って交際が始まった。なあなあで、自然に、なんとなく、ではないのが、実に私たちらしい。

 

実はその前、一度告白してもらい、「遠距離は無理でしょう」と断ったという経緯がある。大学4年の秋で、お互い別の県に就職が決まっていたからだ。

 

当時、私たちは頻繁ではないにしても、一緒に出かけることがよくあった。夜の岩屋山に登って、山の上でお湯を沸かしてコーヒーを飲んだり、別の友人を誘って3人で展望台から星を見に行ったり、食堂でご飯を食べたり。大学生らしい、お金のかからないデートだった。

 

告白にYESと言わなかったとき、夫はかなり驚いていた。「寒いねって言い合ったから…」と言う。聞くと、その日私たちは一緒にカフェでお茶をしていて、その帰り道、横断歩道を渡りながら、夫は私に「寒いね」と言った。私も「寒いね」と答えたことは、今でもはっきり、まわりの光景まで覚えている。

 

俵万智の歌に、あまりにも有名だが、こういうものがある。

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

 

夫は寒い冬の日に、この歌を思い浮かべながら、私に「寒いね」と言ったのだそう。「寒いね」なんて、その辺に転がっている言葉でもあるから、私は何も考えずに「寒いね」と答えたわけだが、夫はここでイケる!と確信したらしい。

 

振った後にこの話を聞いて、おもしろい人だなと思った。それで最終的には結婚したのだから、この歌は私にとって大事な歌なのです。

 

まあ、この話夫はマルッと忘れてたけどね。

 

そういうものです。

 

関係ないけど、ペナン島



 

おすすめPodcast「真夜中の読書会 〜おしゃべりな図書室〜」

前にもブログで紹介しましたけれども、俵万智の『101個目のレモン』という本がとっても良かった。なぜこのタイトルなのかというのも、文中にサラッと出てきておしゃれ。

 

さて、先日のこと。

好きで毎週聴いている「おしゃべりな図書室〜真夜中の読書会〜」というPodcastで、「海外留学するときに、たった1冊連れていくとしたらどんな視点で本を選ぶか?」というお便りが届いていた。私だったら何を持っていくだろうとずっと考えていたのだが、この『101個目のレモン』を読み終えたとき、「これだ」と決まった。

 

このエッセイ集では、「演劇」というテーマひとつとっても、観劇した感想だったり、学生時代の演劇部の思い出だったり、好きな俳優のことだったり、その内容は多岐にわたる。

 

万智さんは、暮らしのなかの些細なことに光を当て、思考を深め、好奇心を忘れず、物事に自分なりの解釈をもっていらっしゃるなと思う。これは、海外生活で大事なことだと思うのです。

 

タイに住んでいると、なんでもあるのでなんでもできるように思うけど、気づけば同じルーティンを繰り返すだけの日々。

 

息子を公園に連れて行き、持ってきたおにぎりを食べ、昼寝させ、ご飯をつくり、風呂に入れる。小さい子どもを育てるというのは、同じことを繰り返すことなのかもしれない。

 

一見つまらないように思えるけれど、1日1日の積み重ねが「暮らし」になっているなと思うのです。

 

こうして息子とカメや猫を追いかけまわし、雨に打たれ、滑り台をすべり、ベビーカーを押す日々は、なんて幸せなのだろう。この『101個目のレモン』は、そんな幸せをじんわりと気づかせてくれるような本だった。

 

私が学生時代に好きだった『赤毛のアン』に、次のような一節がある。

結局、一番幸福な日というのは、素晴らしいことや胸の湧き立つような出来事が起こる日ではなくて、真珠が一粒ずつ、そっと糸からすべり落ちるように単純な、小さな喜びを次々に持ってくる一日一日のことだと思うわ。

 

万智さんの本は、ページをめくるたびに真珠が一粒一粒見つかるような、そんな本で、改めて今送っている日常を大切に生きようと思ったのです。

 

ちなみに、真夜中の読書会で、パーソナリティのバタやんさんは、質問の回答として、二階堂奥歯さんの『八本脚の蝶』を紹介していた。その理由が、これまたとても素敵だった。

 

最近1番更新が楽しみなおすすめのPodcastなので、ぜひ聴いてみてください!

 

▼おしゃべりな図書室 〜真夜中の読書会〜

真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室〜: 新しい環境へ、心の支えになる本を1冊選ぶとしたら? on Apple Podcasts

 

 

 

カフェで読書が至福の時間



 

「マイブーム」ブーム

二十歳のとき、カナダ人の友達に「あなたのマイブームは何?」と聞いたら、「マイブームって何?」と言われた。「マイブーム」が英語ではないことを知ったのは、このときである。

 

調べると、みうらじゅんさんの造語らしい。

友達に日本語での意味を説明すると、音の響きを気に入ったらしく、「マイブーム」は彼らのなかでささやかに流行った。小さな「マイブーム」ブームである。

 

少し前のこと。元TBSアナウンサーの堀井美香さんがパーソナリティを務める「WEDNESDAY HOLIDAY」というPodcastに、みうらじゅんがゲストとして出演していた。

 

みうらじゅん、これまであまり知らなかったが、めちゃくちゃおもしろいではないか!

 

そして先日、ふと、また聴きたくなって、2回目のみうらじゅん回を聞いていたら、やっぱりおもしろい。もっと欲しい! そして私は、みうらじゅんの『マイ仏教』という本を買った。

 

その本によると、みうらじゅんは小さい頃に祖父の影響で仏教に興味をもつようになったらしい。小さい頃には仏様などの写真を貼ったスクラップブックを作っていた。写真に添えられた一言コメントが、なんとも良い。

 

それで思い出したのだが、私も小学生の時に、1冊のA4ノートを持っていた。それには日々感じたことや思い出を書いて、特に何かに特化していたわけではないものの、一応はスクラップブックと言えたのではないだろうか。

 

例えば、祖母に温泉に連れて行ってもらった時には、コインロッカーの鍵をノートに描き写し、ファンタの期間限定味が出た時には、パッケージを貼って「初めての味♪ おいしい!」というような、ありきたりな感想を一言添えた。

 

後にそのノートは母親に勝手に読まれたのだが、読まれてまずいことは書いていなかったので、少しばかり恥ずかしかったが、特に喧嘩になることもなかったと記憶している。薄っぺらい思い出ノートとして、いつのまにか処分してしまった。

 

こういう類のノートを全て残していたら、今頃懐かしく読み返しただろうか。中学生のときに流行った「プリ帳」という、プリクラを並べて貼ったノートもほとんど捨ててしまった。あれには自作の詩なんかも書いていたので、今読めば笑い転げたかもしれない。

 

そういうものは、2年や5年くらい経っただけでは、まだまだ恥ずかしいものとして捨てたくなるが、その恥ずかしさを乗り越えて15年や20年と経てば、味わい深い思い出になるのだろう。

 

私はその恥ずかしい期間を乗り越えられず、数々の名作(!)を燃やしてしまった。嗚呼、今残っていれば、笑いのひとつやふたつを生んだだろうに。

 

みうらじゅん曰く、「変わったものは、数多く見ると、慣れてくる。慣れた先に、クセになる」らしい。これは名言。私の詩もクセになる時を待つべきだった。

 

というわけで、最近のマイブームはみうらじゅんである。

 

▼騙されたと思って聴いてほしい「WEDNESDAY HOLIDAY」みうらじゅん回

ウェンズデイ・ホリデイ | WEDNESDAY HOLIDAY: #13 アナウンサー堀井美香 × みうらじゅん「みうらじゅん流 学びの視点」 on Apple Podcasts

 

 

 

ワット・アルンを眺めながらご飯

 

心理テストで一触即発

俵万智の『101個目のレモン』という本に、「心理テスト」という章がある。

 

その心理テストというのが、これ。

あなたにとって、時計とはどんな存在ですか?

 

心理テストの答えを読む前に、自分でも少し考えてみた。

ふと左腕を見ると、今日は腕時計をつけていない。つけている日もあれば、いない日もある。仕事や家事をしたり子どもと思いきり遊んだりする時にははずしたほうが動きやすいが、つけていないといちいちiPhoneで時間を確認しなければいけない。

 

そこで、私は「必要というわけではないけれど、あると便利なもの」という答えを出した。

 

さて、答え。

実はこれ、あなたにとって異性とはどんな存在ですか?──という質問に、置き換えられる。

 

あらら。

 

仕事から帰ってきた夫に同じ質問をしてみたら、「相棒」と答えた。

答えを言うと、「模範解答だな」とのこと。私の答えを教えると、「ひでえ〜」と言っていた。

 

ちなみに、夫は婚約指輪のお返しとして私がプレゼントした腕時計を使っており、私は夫が誕生日にくれた腕時計を使っている。という惚気で締めたい。

 

あ、誕生日じゃなくて、クリスマスプレゼントだったっけ。忘れてしまった。

 

「ひでえ〜」に変わりない。

 

 

 

老人性イボって知っていますか?

昔、インスタグラマーの方が「今日、クリニックで老人性イボを取ってきました!」と言っていて、老人性イボってなんだろう? と気になった。調べてみたら、年をとると首まわりにできる、シミのような小さなイボのことらしい。私の首にも2つ、3つあったので、これはクリニックに行って取ることもできるのだと初めて知った。

 

とはいえ、特に不便なこともないし、美容に熱心なわけでもないので、当たり前のように放置していたわけだが、先日、思いがけずその老人性イボというやつを取ることになったのです。取るというか、正しくは、「取られた」なんだけど。

 

それは、私がこのブログでも何度もオススメしているのにまわりに誰も行った人がいないという、超ローカルな台湾式産毛取り屋さんでのこと。バンコクの中華街の駅近く、路上に椅子が並べてあるだけのその店で、私はいつものように顔の産毛を取ってもらっていた。

 

説明すると、この台湾式産毛取りというのは、長い1本の糸をX字にクロスさせながら、そのXの部分で産毛を絡め取っていくもので、とても説明するのが難しいので、気になる方は親切な方が写真付きで書いたこちらのブログをご覧ください。

 

trip-s.world

 

終わった後は、とにかくツルツルで気持ちが良い。ついでに翡翠を使ったフェイシャルマッサージまでしてもらい、全部で600バーツ(2,400円)くらいだっただろうか。300バーツだったかもしれない。とにかくお値段も良心的なのです。

 

それで、いつものように肩をトントン! と激しく叩かれたのを合図に全ての施術が終了し、両手を合わせて「コップンカー」と立ちあがろうとしたとき、担当してくれていたおばちゃんが私の首を指さして「これも取っちゃう?」と言い出した。

 

「え、『これ』ってなに?」と聞き返す私の顔が、あまりに不安そうに見えたのだろう。おばちゃんは大事な大事な仕事道具がつまったカバンから手鏡を取り出し、「このことだよ」と、例の老人性イボを指差した。

 

「ここで取れるの?」と聞くと、頷くおばちゃん。

「糸で取るの?」という質問にも、頷くおばちゃん。

「取ったほうが良い?」と聞くと、おばちゃんは大きく頷き、「マイディー(Not good)」と言った。

 

マイディーなら取った方が良いのだろう。

「痛い?」と聞くと、「ニックノーイ(ちょっと)」と言う。

 

ニックノーイなら良いかと思い、「じゃあお願いします」と言うと、これまた大事な仕事道具がつまったカバンからおもむろに糸を取り出し、今度はいつもよりも長めにグルグルやり出した。

すぐに終わるというので目を逸らしておこうと思ったら、手鏡をグッと押しつけられ「それで見ていなさい」と言う。

 

特に見ておきたくも、見ておく必要もないのだが、手鏡を渡されたので仕方なく見ていると、おばちゃんはイボに狙いを定め、腰を落として勢いよく取ってくれた。

痛さは全然ニックノーイではなかったが、なんせ一瞬のことなので問題ない。あっという間に2つの目立ったイボが取られ、おばちゃんはそのイボを私の掌にのせた。これは本当に不要なサービスだと思いながら、私は驚いたような、怖いものを見るような、なんとも言えない顔をしてみせた。

 

再び手鏡で首元を見ると、じんわりと血が滲んでいる。おばちゃんは、これまたそそくさと大事な仕事道具がつまったカバンからベビーパウダーを取り出し、それで私の首をはたいて真っ白くした。

果たしてベビーパウダーで血が止まるのだろうかと謎だったが、私は黙ってされるがまままに白くなり、追加料金を請求されることもなく、600バーツ(もしくは300バーツ)を支払って地下鉄で帰宅した。

 

家に帰って調べると、「老人性イボは炭酸ガスレーザーで除去するのがおすすめ」などと書いてある。インスタグラマーさんはこういうクリニックでレーザーを当てたのだろうか。きっと高額だろう。高くなくても、産毛取りとマッサージのついでに無料で!とはいかないはずだ。

 

今日、久しぶりに首元を見たら、老人性イボは跡形もなく消えていた。

おばちゃん、なかなかの腕前である。

 

帰りに中華街で食べたブアローイ

 

「工芸うんちく旅」という、おもしろPodcast

海外ではradicoが聴けないので、タイに住み始めてからよくポッドキャストを聴くようになった。最近、中川政七商店ラヂオから「工芸うんちく旅」という新しいシリーズが始まり、それがおもしろかったので紹介したい。

 

といっても、公式ウェブサイトを見てみると、2022年7月に最初のエピソードであるVol.1が公開されているので、新しいシリーズというわけではなさそう。Apple Podcastでの公開が最近始まったということなのかな。

 

 

この番組のパーソナリティは、男性二人。

中川政七商店で、大日本市という大きな展示会のディレクターを担当された高倉泰(たかくらたいら)さんと、帰国子女で日本工芸が好きな編集者の引地海(ひきじかい)さん。どちらも名前がかっこいい! そして、すごく爽やか。なんというか、品があって親しみやすい。あと、声が聞きやすい。(大事!)

 

内容はというと、お二人が日本のいろんな工芸産地を訪れ、そこで職人さんに聞いた話のなかからおもしろい!と思ったことを、おふたりの目線で話すというもの。それを、うんちくとして紹介しています。

 

1回目に訪れたのは、福井県鯖江市。鯖江といえば、すぐに眼鏡が浮かぶけど、それもそのはず。国産メガネの約9割が鯖江でつくられているんだそう。そりゃ、眼鏡のまちだ!

しかし、番組で取り上げていたのは眼鏡ではなく、越前漆器でした。鯖江は眼鏡以外にも、越前和紙、越前打刃物、越前箪笥など、有名な工芸品がたくさんあるらしい。知らなかった。

 

お二人が越前漆器の塗師(ぬし)である内田さんから聞いた話から、私もおもしろい!と思ったうんちくをいくつかご紹介!

 

  1. 漆を乾燥させるためには、湿気が必要。鯖江市は湿度が高い地域なので、生産に適している。
  2. 漆は乾燥して硬くなる。その硬化のピーク(ベスト状態)は、100年後に訪れる。
  3. お椀は世界的に見ても珍しい、口を直接つける食器。スプーンの役割を果たしているとも言える。
  4. 漆器には黒と赤があり、赤い方が身分が高い人用。
  5. 漆器には男性用と女性用があり、男性用の方が高台が低い。これは、床に座った時に、男性はあぐらをかき女性は正座するため、あぐらをかく男性のほうが器を持つ位置が低いから。

 

と、こんな感じです。

(買い物中に聴いた内容をうろ覚えのまま書いているので、正確じゃないかもしれません。悪しからず)

 

まさに私が求めていた番組ドンピシャで、発見した時はかなり高まりました。もともと「さんち 〜工芸と探訪〜」という中川政七商店が運営している、日本の工芸品を紹介するメディアが好きだったので(さんちは数年前にクローズしてしまいました。とっても残念!)、こうして工芸品を取り上げるコンテンツをまた見つけられてハッピーです。

 

奈良編など、他のプラットフォームですでに公開されているエピソードもあるんだけど、私はApple Podcast で聴くことが多いので、Apple Podcastで更新されるのを待って聴こうと思います。

 

次回も楽しみ! 

 

story.nakagawa-masashichi.jp

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』を読んだ感想

また面白い本を読んだ。

 

タイトルは少し長くて、『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』。この本を書いた花田菜々子さんは、他の著書にも『出会い系サイトで出会いをあきらめて5年間日記だけを書き続けたらまさかのモテモテになったので晒します 出会い系サイトで5年間日記』という長いタイトルをつけている。長い!

 

この本は、ヴィレッジ・ヴァンガードで店長として働いていた菜々子さんが、出会い系サイト「X」を使って70人に会い、その人に合う本をオススメしていくという、タイトル通りの話なのだが、自身の夫婦関係や仕事に関する悩みが並行して書かれてあり、「X」で出会う人たちやそこでの経験を通して、その悩みとどう向き合うかというストーリーも面白い。

 

特に、第6章で憧れの山下さんと会い、自分にとって幸せとは何かを頭と心と体で悟るシーンは、こちらまでブルッと震えた。

 

本のすすめ方についても、最初は相手の興味のあるフィールドど真ん中を狙っていくが、試行錯誤を重ねて、「あなたが素敵」+「この本素敵」=「素敵なあなただから素敵なこの本がおすすめです」作戦へと辿り着く。この過程も面白いし、この作戦はいろんなことにもあてはまるので、どこかで参考にしよう。

 

本の最後にオススメの本が一覧にしてあり、その中にミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』があった(以前紹介してもらって読んだことがある)。この本は、フリーペーパーの「不用品売ります」コーナーに出品している人を訪ねてインタビューしていくという内容で、出会い系サイトにしろフリーペーパーにしろ、「自分はこういうことをやっているのでお話聞かせてもらえませんか」という武器をもっていると、出会いが広がりやすいのだなと思った。

 

菜々子さんは出会い系サイトで見ず知らずの人に本をすすめることを「武者修行」と呼んでいたが、本当に「修行」という気持ちがなければ、こんなに次々と新しい人に会えないだろう。

 

菜々子さんはその後、この経験をもとに大手書店に採用される。アイディアと行動力、そこで培った経験とスキルというのは、確かに魅力的だと思った。

 

結局、面白い人は、面白いことを思いついて、実行する人のことなのだろう。私はなれない。

 

 

憧れの山下さんと話した日の夜、嬉しさを噛み締め、宿でひとり興奮を噛み締めるシーンより引用。グッとくる。

クロスワードパズルのたったひとつの解答が連鎖的にすべての解答を導き出すときのように、このささやかな夜は私の魂を決定づけた。

解けたからわかる。私が突き付けられているような気がしていた普遍的な議題──たとえば「独身と結婚しているのとどちらがいいのか?」「仕事と家庭のどちらを優先すべきか?」「子どもを持つべきか持たないべきか?」──そもそもの問いが私の人生の重要な議題とずれていたのだ。こんな問いに立ち向かわされているとき、いつも自分の輪郭は消えそうで、きちんと答えられなくて不甲斐ない気分になることは、自分がいけないのだと思っていた。でも今夜、この今、自分の輪郭は電気が流れそうなほどにくっきりとしてびかびかと発光していた。

もう普通の幸せはいらない。恋愛も結婚もいらない。お金も安定もいらない。何もいらない。ただ今日見た光を信じて生きていこう。

自分の求める幸せが何なのかはっきりわかった。そんな夜だった。