私が大学生のとき、大学1年生の妹が海外に行ってみたいというので、ベトナムに連れて行った。
結果として、妹は「もう二度と海外には行きたくない」と言いながら帰国したのだけど、最初の海外がベトナムというのはちょっと刺激が強すぎたかしら。
妹にとっては刺激が強いベトナムでも、私にとっては最高の7日間だったので、ベトナムでの出来事を1つ紹介したい。
ベトナムはコーヒーが有名で、町中いたるところにカフェがある。値段もとてもリーズナブルなので、雨が降るたび雨宿りにカフェを利用した。
その日も雨が降り出したので、近くのカフェにフラッと入ったのだが、想像以上にローカルなカフェで、英語が全く通じなかった。
カバンからガイドブックを取り出し、後ろの方に付いている「指差し会話帳」ページを頼りにコーヒーを注文する。
席はなぜかお座敷スタイルで、靴を脱がなくてはいけない。テーブルが2つあり、私たちの隣のテーブルには地元の男子が3人組がいた。
彼らはずぶ濡れの日本人が気になったのか、こちらをチラチラ見てくる。
妹が「話しかけてみる?」というので、ふたたび指差し会話帳を広げた。
「挨拶」のページを見つけると、早速「こんにちは」と言ってみることに。
「xin chao(シンチャオ・こんにちは)」と話しかけると、彼らは怪しそうな表情を浮かべながらも「xin chao(シンチャオ)」と返してくれた。
「Cam on(カム オン・ありがとう)」というと、「ホン コー ジー」と言う。
あれ、伝わらなかったのかな?
指差し会話帳を見返すと、「ありがとう」の下に「Không có gì(ホン コー ジー・どういたしまして)」が載っていた。
なるほど、会話が成立したわけだ。
さらに指さし会話帳を順に読み進める。 「挨拶」のページが終われば、「道を尋ねる」のページ。
「トイレはどこですか?」と聞くと、トイレの場所を指差す少年たち。
指さし会話帳ゲーム、おもしろいではないか!
少年たちと打ち解け、楽しいベトナム旅行の思い出ができたかのように見えたが、「助けを求める」のページに進んだとき、楽しい会話に緊張が走った。
私たちが、笑顔で「警察を呼びますよ」と言うと、彼らの表情が一瞬にしてかたくなったのだ。
「警察を呼びますよ」を言えば言うほど、困惑する少年たち。怯えたように靴を履きだす少年さえいる。
まさか、本気で通報すると思っているのだろうか。
今まで、「指さし会話帳が通じるか」というゲームを楽しんでいたつもりだったのに、そのルールは共有されておらず、楽しんでいたのは私たちだけだったよう。
結局、私たちはどうすればいいか分からず、また「xin chao(シンチャオ・こんにちは)」に戻るしかなかった。
「今のは冗談です」 というフレーズも、ぜひ指差し会話帳に追加してほしいものだ。