旅行先では、必ず家族にポストカードを送る。現地でかわいいカードを買って、「おいしいフォーを食べました」とか「はじめての社会主義国です」とか「バッグを盗られました」というような、薄っぺらい旅の報告を送るのだ。
ペルーの首都・リマをきみさんと旅行したとき、空港でかわいいポストカードを貰ったので、「マチュピチュ楽しかったです。まさに、ラピュタ!」と書いて郵便局に持って行った。
切手を買うために列に並んでいると、後ろからおじさんに話しかけられた。
彼は日本に手紙を送るために郵便局に来たという。たしかに日本人宛の手紙を握りしめていて、「宛先は読める?」と首をかしげた。
おじさんの名前は、ホルヘさん。昔日本で働いたことがあるらしく、流暢な日本語を話す。宛名はかわいらしくも立派に日本語で書かれていて、「大丈夫。ちゃんと分かりますよ」と言うと、安心したようだった。
ホルヘさんは「久しぶりに日本人に会えて嬉しい」と言ってくれた。日本で働いていた間にお世話になった工場の人がとても親切だったので、それ以来日本人が大好きなのだという。そういえば、カナダでも同じように日本人のことを好きだと言ってくれる人がいて、コーヒーをご馳走になったことがあった。きっと、とてもいい人だったんだろうな〜。
「これからどこに行くの?」と聞かれたが、私たちはいつものようにノープラン。特に予定はないと伝えると、「それなら一緒に過ごそうよ」と誘われ、リマを案内してくれることになった。
私は今までいろいろな人に騙されかけたし、実際に騙されたこともある。ひょっとすると、騙されたことにさえ気づかずにいることだってあるかもしれない。クスコでは警察官に ”Don't believe anyone!”と念を押されたこともあり一瞬悩んだが、「久しぶりに日本語を話せて嬉しいな〜」と本当に嬉しそうにホルヘさんが笑うので、一緒に過ごすことにしたのだ。
最初に行ったのは、近くの雑貨屋さん。ここで私たちはお土産を買うことにした。「買うときは僕に言ってね」というので言われた通り声をかけると、かなりシビアな値下げ交渉をしてくれた。(日本の工場長さん!ありがとう!)
買い物を終え街を歩いていると、ホルヘさんの目が輝き、興奮しはじめた。前から有名人が歩いてくるという。「君たちラッキーだね!」と突然走り出し、ホルヘさんはその女性に「この子たち、あなたの大ファンなんです。写真撮ってもらえませんか?」と話しかけた。女性は快く記念撮影に応じてくれ、ホルヘさん大喜び。私は今でも彼女が誰なのか分からない。
ご飯を一緒に食べて、また歩き出す。
公園に近づくと、なにやら交通規制がされていた。ホルヘさんが思い出したかのように「今日は大統領の誕生日だ!」と言う。ちょうどその公園では、大統領の誕生日セレモニーが始まるところだった。
なんたる偶然!
そこで私たちは、ペルー大統領の誕生日を祝うことに。
遠くに大きなステージがあり、まわりを大勢のペルー国民が囲んでいる。さぞ人気者であろう。私たちは大統領となんの面識もないので(もちろん、安部首相とだってない)後ろから眺めていようかと思ったが、私たちを喜ばさせたいホルヘさんはそうはさせてくれない。
おじさんと2人の小娘がペルー国民をかき分け、ステージに近づく。すると突然、ステージにほぼ爆発と同じレベルの花火が吹き出し、大統領ご夫妻が登場。なんとも豪華な誕生日セレモニーが始まった。
会場のボルテージは急上昇。私たちも、ひたすら知っているスペイン語を叫んだ。
「セニョーーーーーーール!!!!」
周囲の男性が、一気に振り返ったのは言うまでもない。そのうちのひとりに、大統領への手紙を預けた。ステージ上の大統領まで届いたのだろうか…… ホルヘさん、素敵な1日をありがとう。