前の会社を辞めるとき、上司がご飯に連れて行ってくれた。
同期のはなちゃんとえりなちゃんも来てくれて、笑いあり涙ありの楽しい時間だった。いつもは一次会で解散だけど、その日はもう一杯ということになり、おしゃれなバーにも連れていってくれた。
上司はいつも、車で来て、代行で帰る。
この日も代行で帰るというので、駅まで乗せてもらうことに。いつもの立体駐車場まで一緒に歩き、3階で降りると「先に乗ってて」と鍵を開けてくれた。3人で後部座席に乗りこむと、上司はそのままどこかに消えていった。
二次会まで行ったのにまだ話し足りなかったのだろう。車内で三次会が始まった。
異変に気付いたのは、三次会が始まって20分くらい経ったとき。上司が戻ってこないのだ。
「ねえ、遅くない?」
「代行に電話してるのかな?」
「でも、もう20分は経つよね?」
あまりに遅すぎる。
すると、えりなちゃんがおもむろに口を開く。
「私、分かっちゃった……」
向き合う3人。
「花束買ってるんだよ」
えりなちゃんは、私の退職理由が結婚なので、駐車場の隣にある花屋で花束を買っているんだと主張した。
「私、こういうの分かっちゃうんだよね」
自信満々である。
「絶対、そう」
そんな言われると、そうかもしれないと思ってしまう。駐車場で20分も他にすることないし。
しかし、サプライズの花束が用意されていることを知ってしまった以上、私はいざ貰うというときにどういう反応をすればいいのだろう。
驚いたふりをした方がいいの?
それとも素直に「そうだと思いました」と笑顔で受け取った方がいいの?
なんで、えりなちゃんはサプライズを事前にバラしちゃうの??????
すると、頭をかかえる私の前に上司が現れた。見ると、ポケットに手を突っ込んでいるではないか。
「ごめん、お待たせ。早く迎えに来てほしいから、すぐに代行の人がエレベーターに乗れるように、上がってきたエレベーターを、ずっと1階に下ろしてたんだよ。でも、なかなか来ないね。参った参った……」
エレベーターを……
1階に……
下ろす……
(20分間……)
私はえりなちゃんに言いたい。
花束はどこだ、と。
ただし、その推測は真っ当だ。
20分も戻らない上司(役員)がエレベーターを上げ下げしていると、誰が予想できるだろうか。
バックミラーに映る笑顔の上司と目が合わないよう、そっとうつむいた。