今日のこと。

ほとんど今日のことではありません。

シェアハウスの思い出

カナダ留学中に私が住んでいたのは、現地の大学生とのシェアハウスだ。2階+地下の3階構造で、私は1階の奥の部屋だった。オーナーはイタリア系カナダ人のフランクさん。普段は、バスの運転手をしている。

 

私がアルバイトに行くために乗るバスの運転手が、たまたまフランクさんだったら、彼はバス停なんてないのに、アルバイト先のレストランの真ん前で降ろしてくれる。「チャオ!」と言って。

 

彼のガールフレンドが、同じシェアハウスの2階に住んでいた。名前は、カラ。黒人だ。

 

私は一度、カラに部屋を漁られたことがある。私の隣の部屋に住んでいた、ヨルダン人のアブドュールが見つけてくれた。私がシャワーを浴びている時に「何やってるんだー!」という声が聞こえてきたので、何事かと思えば、私の部屋でカラが荷物を物色していたらしい。そういえば、スマートフォンもなくなった。彼女がとったのかは、分からない。

 

私が住んでいた部屋は、エージェントに紹介してもらった部屋じゃなく、自分で勝手に探した部屋だ。カナダに着いて3日目に部屋探しを始めた。最初の1ヶ月は、エージェントに紹介してもらったホームステイ先で過ごしていたのだが、立地が悪い。

 

住みたいエリアを歩いて回り、「For Rent」と看板が出ている家に1軒1軒電話をかけていったのだ。繰り返すと、このとき、カナダに着いて3日目。英語なんてわかるわけもないのに、日本でも経験したことのない賃貸契約を結ぼうとしている。かなり無謀だったが、どうにかなるもの。フランクの妹であるリンダが、優しく説明してくれた。日本の賃貸契約と違って、家賃1ヶ月分の前払金を支払えば契約は完了。私が引っ越す前に、フランクが壁の色を塗り替え、「女の子はオシャレしなきゃいけないからね」と全身鏡を取り付けてくれた。

 

結局、この家には10ヶ月住んだ。最初は家賃450ドルだったが、最後はリンダが200ドルまで値下げしてくれた。というのも、この家でまともなのは私だけ。あとの学生たちは、夜な夜なパーティーを開き、その度にドアや冷蔵庫をぶっ壊す。

 

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私の部屋のドアもこの通り……

 

特に酔った勢いで幼稚な宗教論争が繰り広げられたときは、家中の家具家電が吹っ飛んだ。「お前はムスリムなのに、酒もタバコもやってんじゃねえかー!!!!!!アッラーってそんなもんかよー!!!!!!ファーーーーーック!!!!」みたいな。

 

 

フランクはいつも「みさきは、みんなのお手本だ」と言う。そして、アルバイト先まで(公共のバスで)送ってくれる。「チャオ」と言うので、私も「チャオ」と言う。

 

彼はバスの運転が終わったら、また家の修理をしないといけない。カラにお金も渡さなければいけない。私の部屋に勝手に入ったことを秘密にしようと思っていたが、彼はアブドュールからすでに聞いていたようで、泣き出す私を優しく慰めてくれた。「みさきは何も悪くないよ」と。

 

今、あの家には誰が住んでいるんだろう。あの家は、健全ではなかったけど、いい家だった。汚い言葉ばかり覚えたけど、うん、いい家だった。