最近は俵万智のことばかり書いているけど、そういえばひとつ思い出したことがある。夫と付き合う前のことだ。
私たちは、夜の大学の屋上という、なんとなくロマンチックに聞こえるけれど、実際のところそうでもないスペースで、「じゃあ、付き合おうか」と言って交際が始まった。なあなあで、自然に、なんとなく、ではないのが、実に私たちらしい。
実はその前、一度告白してもらい、「遠距離は無理でしょう」と断ったという経緯がある。大学4年の秋で、お互い別の県に就職が決まっていたからだ。
当時、私たちは頻繁ではないにしても、一緒に出かけることがよくあった。夜の岩屋山に登って、山の上でお湯を沸かしてコーヒーを飲んだり、別の友人を誘って3人で展望台から星を見に行ったり、食堂でご飯を食べたり。大学生らしい、お金のかからないデートだった。
告白にYESと言わなかったとき、夫はかなり驚いていた。「寒いねって言い合ったから…」と言う。聞くと、その日私たちは一緒にカフェでお茶をしていて、その帰り道、横断歩道を渡りながら、夫は私に「寒いね」と言った。私も「寒いね」と答えたことは、今でもはっきり、まわりの光景まで覚えている。
俵万智の歌に、あまりにも有名だが、こういうものがある。
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
夫は寒い冬の日に、この歌を思い浮かべながら、私に「寒いね」と言ったのだそう。「寒いね」なんて、その辺に転がっている言葉でもあるから、私は何も考えずに「寒いね」と答えたわけだが、夫はここでイケる!と確信したらしい。
振った後にこの話を聞いて、おもしろい人だなと思った。それで最終的には結婚したのだから、この歌は私にとって大事な歌なのです。
まあ、この話夫はマルッと忘れてたけどね。
そういうものです。